◆作品紹介
ある巨大な文明が潰えたあとで、月面人たちは銀色の夜をさまよい歩く。〈わたし〉と彼らは遺された書物の引用で語り合う。〈わたし〉たちはそれ以外の言葉を知らない。書物のほかに、蛸や蝶や貝、そして月面人たちの生態を観察し、そこから〈わたし〉は宇宙の法則と歴史を学び取ろうと試みる。かつて何が始まり、何が終わり、星々はどこに向かってその鈍い輝きを放ち続けているのか。何ひとつわからずとも、〈わたし〉たちは眼前に広がる世界という書物をひもとき書き記すほかはない。過去の中にはどこにもない、奇妙な景色に身を任せ、過去の言葉を費やしながら、新たな言葉を探り当てようとするほかはない。知るとはおそらくそのことにほかならない。(編・樋口恭介)