◆作品紹介
監視塔を囲む六〇の独房。よく知られたその監獄が起動するとき、囚人たちのあいだに不可解な同期現象が発生する。 思えば本格ミステリというのは奇妙な読書体験だ。通常、何かを物語るテキストには必然的に情報の濃淡が生まれ、それが読み手の身体性と呼応する中であらわれるグルーヴが物語時間の一回性を駆動する。しかし、提示された情報から謎を解くという目的下において、原則あらゆる文は等価に「読まれるべきもの」として立ち上がる。私たちは目を逸らせない。なぜならあらゆる文字が、私たちを見ている可能性があるからだ。深淵を覗くとき……いや、皆まで言うまい。ここで真に恐ろしいのは、深淵とはあらゆるものに潜在しており、ゆえに私たちはあらゆるものから覗き返される可能性を帯びていると気づくことだ。一本の塔が私たちのすべてを見てくれている世界。今となってはそれは、ああ、なんたるユートピアだろう。(編・青山新)
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