◆作品紹介
爪がそれぞれ生きているというのは周知の通りではあるものの、不思議なことに、彼らの営みを描いた物語は驚くほどに少ない。奇譚、怪談、幻想文学、スラップスティックの紋切り型を文体レベルでも模した本作は、紋切り型のジャンルフィクションであることをいいことに、爪たち自身が生きていることの怪異を通して、そもそもの生そのものがあらゆる場所に存在することの怪異を浮き彫りにする。そのようにして我々は、どこか既視感のある三文小説を読まされているうちに、いつのまにやら、日常の中に非日常を、非日常の中に日常を、複数のレイヤーで意図的に混交させる、狙いと言ってよいのかどうかですら不明である、〈謎〉としか言いようのない〈謎〉そのものである生にまつわる描写のありかたを前にして、恐怖でもなく、笑いでもなく、むろん感動であるはずもない、あらゆるものの〈一歩手前〉である〈いま・ここ〉に対して、不快な我慢を強いられ続ける自分に気づくのである。(編・樋口恭介)