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平大典「【対東京《バーサス・トーキョー》】Versus Tokyo」(9)最終回

平大典「【対東京《バーサス・トーキョー》】Versus Tokyo」(9)最終回

 

集合地点ランデブー・ポイントである新宿区シンジュククの北側にある戸田トダビル四〇階の公園広場には、零時過ぎに到着した。

 

下の階層は、第三早稲田大学WUⅢ戸田トダキャンパスが数階にわたって占拠している文教ぶんきょう区画くかくだ。人はいない。園内の大半は、青々と茂った緑に覆われていた。公園を囲むガラスの枠組みフレームは三角格子で組まれており、ビル外の環境によってガラス板の角度を変える機能を有し、公園内の温度や湿度などを調整している。真冬らしい寒風かんぷうが外部から入り込んでくると、木々の枝が小さくざわついた。息も白い。

緑地帯の脇にあるベンチ付近に、殻馬カラバなどの団員が四人で待っていた。全員が黒い衣装に身を包み、顔まで黒くに塗っている。立場としては俺の側近トリマキになるのだろうが、全員の名前を覚えていない。

窓際に立ち、南方の歌舞伎九龍城カブキ・クーロン方面に目を向ける。最終完璧絶叫地区スケアリー・エリアである新宿区シンジュククは、煌々ギンギラと光を放っていて、鉄の玉座アイアン・スローンのように大量の建築物が連なっている。

芝生の上には、顔を真っ赤に腫らした男がうずくまって震えていた。薄暗い中でも、上半身には痣だらけで裂傷も見受けられ、右腕があらぬ方向へ湾曲しているのがわかる。かろうじて生きているといった印象だ。

寒山カンザン先生、お疲れ様です」殻馬カラバが俺に頭を下げた。

殻馬カラバは手袋から首に巻いたストールまで真っ黒、乱破シノビのようだ。寒冷かんれいに耐えきれないのか、手を擦っている。

俺はベンチに腰を下ろす。

側近トリマキの一人が隣までやってきて、愛用の金属キルバットを渡してくれる。

残りの奴らは、鉄鎚ハンマー拳銃チャカを携えて、周囲を警戒していた。

殻馬カラバさん、今日はどの地点ポイントに集まっているんだ」

殻馬カラバは眼鏡を直す。「それが。まだ【第五圏】の雑魚ヘチマを一名、バラしただけで。あと、一名捕まえたんですけどね」

男は動かない。

尋問シバキか」

「ちょっとだけですよ。でも、全然情報を持っていない青二才ボーン・イエスタデイでした」

殻馬カラバは街の光で色づいている生体せいたい天蓋てんがいとその向こうの曇天どんてんを睨む。

と、公園へと駆け込む影がある。少し身構えるが、周囲には、複数名の斥候パシリを配置しているのが常だ。

髪の色を真っ赤に染め鶏冠トサカにしている半袖半ズボンの若い女だった。両サイドは見事に刈り上げてあり、まるで病気に伝染したニワトリのようだ。確か先々月から東京の宵トーキョー・ナハトに参加している監視機械ドローンの整備士だ。ラウェイというマイナーな総合格闘技を習っているらしく不道徳パンクな格好の割に活発スポーティな印象も受ける。

「伝令です!」ニワトリは、大きな声を張り上げる。

「気を使え、新入りヌーブ殻馬カラバが顔を歪める。「声の音量下げてくれ」

「はい、すいません、それで状況なのですが、ちょっと気になることが。どうやら、他圏ヨソの連中、戦わずに一緒に行動ナカヨシコヨシしているみたいで」

「ん? 圏を越えて連携している、という理解でいいか」

「はい。そのうえで、奴ら中年ダッドを一人連れ回していまして」

「そいつはなんだ。第二圏ウチの奴か?」

「それが。……曖昧なんです」

はっきりしない物言いだったが、十分だ。俺はベンチを立つ。

徳川吉宗トクガワヨシムネ転生者イタコ。それはいい。問題は、他の圏ヨソの動きだ。

【第二圏】以外の戦闘員ソルダート共同戦線アライアンスを張っている。

「……その中年デュードが今夜の鍵だ。助けに行く」

「なんですか」

「今夜の東京の宵トーキョー・ナハト特別エンジェルだ。さっき俺のところに、徳川宗春トクガワムネハルがやってきた。奴は宣託オファーを与えた。その中年デュードをしょっ引けば、俺たちに【第六圏だいろくけん】を与えると。第六圏、これは俺たち人間による管理が可能な圏だ」

俺が徳川宗春トクガワムネハルからの提案内容を説明すると、全員の顔がこわばった。

「事実ですか」

「嘘は言わん。だから、ヨソの連中もそいつをバラさずに、保護しているんだ」

「おい」殻馬カラバニワトリをねめつける。「今、そいつらはどこだ!」

中年デュード歌舞伎九龍城カブキ・クーロンで確保されましたが、南下しています。数は不明ですが、二〇名以上はいるかなって感じっす。ええと、現在は多分、都営電鉄トエイ第五だいご新宿駅シンジュクえきの東出口辺りじゃないかなって」

殻馬カラバは視線を俺に向ける。

追跡オッカケは継続。情報はなるべく俺に集めろ」

殻馬カラバがコートのポケットから、ブザーを取り出し、何回か音を鳴らした。

反応は早い。公園の向こうから、軽快な進軍しんぐん喇叭ラッパの音が響く。それに呼応し、今度はもう少し南方で響く。

喇叭ラッパが全体への指示命令コードとなっている。このやり方は、殻馬カラバが提案した。多少ジジくさく感じたが、対案が狼煙のろしくらいしか思い浮かばなかったので、採用した。

「各人集合して、南下しろと指示しました。細かいものは別途で。なにかありますか」

「南下して、一か所に追い込め。完了したら俺が現場に到着するまで待機させろ。あと、追跡の途中で戦闘員ソルダート拿捕だほした場合はバラさずに尋問をして、誰が司令塔シキリかも吐かせておけ」

そう告げると、殻馬カラバニワトリをそばに寄せて、なにやら耳元でささやく。

「了解です」ニワトリはすぐさま背を向け、歌舞伎九龍城カブキ・クーロン方面へ跳ねるように走り始めた。

うずくまっている男。すでに息絶えていた。

殻馬カラバは眼鏡に触れ、俺を見つめる。

「やはり、我々は正しかった。あなたは神たる東京デウス・トーキョーに選ばれたのです」

 

追い込みは順調だった。俺たちは、グチャっている歌舞伎九龍城カブキ・クーロン中心セントラル、標高二〇〇メートルの東宝映画劇場TOHOシアターまで到達していた。

気温が低い真夜中だが、地上最大クソデカ歓楽街遊び場には関係ない。極彩色キラキラ電飾ネオン氾濫はんらん。スピーカーから東京GOD冒涜ダメだしするような歌詞リリック蠱惑的こわくてきV系音楽ヴィジュアルけい会話志士ホストや客引き、カップル、姫系リズリサ、腰の曲がった老人じじい大麻ガンジャ売りが車道歩道を無視シカトしてうろついている。宗春ムネハルが最も気に入っている場所エリアとの評判。若い不良イキりは、般若心経はんにゃしんぎょうが模写された落下防止柵フェンスからバンジージャンプしたが、誰も見ていない。流しの演説屋クチダケ逢引部屋モーテルの窓から身を乗り出して、「我々はアヒルではない! 人間ヒューマンだ!」と叫んでいるものの、誰も聞いていない。下位文化雑多性が異常繁殖発達ミューテーションしている歌舞伎九龍城カブキ・クーロンは、典型的かつ世界唯一オンリーワン都市内世界インナーシティと化している。

殻馬カラバは腕を組んで、街を行き交う猥雑オゲレツな都民たちに対し、侮蔑ぶべつの視線を送っている。

俺に追随ついずいする奴らは団員から選抜をさせている。群衆ムレの中の移動でも速度を落とさない連中だ。殻馬カラバ以外の護衛トリマキは、常に俺ではなく、周辺を警戒している。

「なかなかの数みたいです。くだんの中年デュードを連れている戦闘員ソルダートは八〇名以上だそうで」殻馬カラバは、眼鏡を直した。「こちらは一五〇人規模ですので、数的に優位なのは相違ないですけど」

「どこへ向かっている」

「西へ東で揺れながら、なんとなく南東の方角へ向かっているそうです」統率が取れきってはいないようだ。「新宿御苑ギョエンの辺りなので、このまま行くと新宿区シンジュクク境界ボーダーまで到達するのではないかと」

宵闇よいやみに埋もれた新宿御苑ギョエンはドブ地で腐れ木が繁茂はんもしており、地形の隆起も多く死角が生まれやすい。端的に戦いにくい。乱戦になってしまうし、中年デュードを見失う可能性が高い。ビルに追い込むのが定石セオリーだ。

俺は指示を出す。「包囲は成功しているし、数は俺たちのほうが多い。各部隊二〇人くらいの分隊セルに分けて、そのまま追い込め。新宿御苑ギョエンに入ったら、大袈裟じゃんじゃかに騒いで、こちらの数を多く見せろ。本隊俺らは、新宿御苑ギョエンを迂回して下層住宅層を抜ける」

樹上開花じゅじょうかいかの計ですか。古臭いですが、有効でしょうね」|殻馬カラバは落ち着かない様子で、歌舞伎九龍城カブキ・クーロン名物である電光多重階層ネオン・ミルフィーユを見回す。人が多く五月蠅い場所エリア苦手NGだという。「新宿御苑ギョエンを抜けた先は、巨大樹ビッグ・ツリー。屋上には新国立競技場遺産スタジアムがありますね。あそこは新宿区シンジュククの端で逃げ場もない」

ベテランで研究熱心ブックスマート殻馬カラバは根っからの宗教都市学者トーキョー・フリークであり、神たる東京デウス・トーキョー中の地理や地形、行政区分を事細かに把握していた。一方で、執着しゅうちゃくが強く猟奇的サディスティックでもあり、極端ピーキーな二面性を持っていた。優秀な人間だが、信用が出来ない。多分、弐号ニゴさんはこの不安定アンバランス性質タチを避けたのだろう。

追い込み先になる新国立競技場遺産スタジアム東京復活トーキョー・ラザロの初期、吉宗ヨシムネ質素倹約緑政グリーングリーン・ポリシーのプロトタイピングとして大規模木造ビル、巨大樹ビッグ・ツリーを建造した。その屋上には、前時代への郷愁ノスタルジア象徴シンボルとして新国立しんこくりつ競技場きょうぎじょうを再現した。だが、建造が完了するとすぐにむねはる体制たいせいに移行。以後長い間放置されてきた。いまでは誰もいない聖域ノーマンズ・エリア、暴れ放題だ。

「必要あれば、拳銃チャカとか花火で威嚇いかくしておけ」

「わかりました」眼鏡を両手で直した殻馬カラバは、またも周囲へ目くばせする。少し汗ばんでいるように感じる。「さっさとこんな品性が腐りそうな糞溜めエリアなど離脱しましょう。五月蠅いし、匂いスメルも多くて。どこから敵が襲撃ぶっこみしてくるか」

「今夜はチャンスだ、殻馬カラバさん」

殻馬カラバの目つきがまた鋭くなる。「そうですね、あれだけの数初めてです。何人仕留められるか、見ものです」

「俺以上にバラせるぞ」

意味することを理解したのか、殻馬カラバは黙って、俺の先を走り始めた。

 

殻馬カラバと俺のやり取りに聞き耳を立てていたヌルいクソバターファッカーたちが、内容を拡散バケツリレーしたようだ。

今夜は好機チャンスだ。寒山カンザンを越えて、頂点テッペン君臨くんりん。できるかも。

追い込み自体は静かに進行したが、奇妙な緊張感が張り巡っている。

とはいえ、先走ると、窮鼠きゅうそねこ噛むかむ如くに逆襲ぎゃくしゅうされかねない。しかも、組織的に動くという前代未聞。最前線フロント・ラインはおっかなびっくりだろう。優しい中年少年タミオもいるはず。

一時間ほど経過したところで、新宿御苑ギョエンでの追い込みは成功した、と報告が入る。

敵の群れは予定通り、巨大樹ビッグ・ツリーの屋上、国宝こくほう建築けんちくに登録されている新国立競技場遺産スタジアムへ逃げ込んだ。思いのほか反撃も少なかったようで、こちらの被害は皆無だ。

巨大樹ビッグ・ツリーの高さは一〇〇メートル程度。復興初期の木造建築ではこの高さが限度ギリだった。俺たちは第二空中公道の歩道にいて、強化ガラス製の落下防止策フェンスから競技場遺産スタジアムを見下ろす。

神たる東京デウス・トーキョーの底、闇が深い。巨大樹ビッグ・ツリーはどの空中公道とも接しておらず、一度地上に降りてから登らなくてはいけない。

屋上で競技場遺産スタジアムを取り囲んでいる軍団クランの人員は全身黒づくめブラックブロックで、つまり俺の手駒ということになる。闇の中。誰が誰だか判別不能。黒い粒塊りゅうかいが蠢き、まるで大移動スイミーだ。

中年デュードを連れた連中アホヅラ全員まとめて競技場遺産スタジアムに入り込んだことを確認しました。ふくろねずみです。ここから、どう攻めますか。少数送り込んで、揺さぶりをかけるのもできます。逃げて出てきた奴らをモグラ叩きのように潰すのはいかがでしょう」

残虐趣味サディスト殻馬カラバらしい提案だった。

俺の意見は違う。

趣味趣向じゃなく、適切でないからだ。電光石火マッハで一網打尽。

吉宗ヨシムネ保護らちして、摂政セッショーに引き渡す。俺は第六圏を手に入れる。よきはじまりアゲイティス・ビリュンだ。

「俺たちも屋上へ向かう。そうしたら、合図で一気に攻めろ、中年デュード確保が最優先。ツブせる奴はツブして、気のない奴は、巨大樹ビッグ・ツリーから突き落とすか、区外くがいまで押し出しちまえ」

了解OKですが、一つ懸念が。入り混じった中で、中年デュードを誤って殺バラさないようにしないとです」

俺たちは巨大樹ビッグ・ツリーへ向かうため、一旦地上への移動を開始した。

「十分注意するように伝えろ。ツラや特徴を共有させておけ」

「不十分では?」

「どうせ似たような依頼ヨロシクはまたある。……だったら、次の機会チャンスを待てばいいんだよ」

 

宗春ムネハル底意地そこいじが悪い。

巨大樹ビッグ・ツリーの内部を進んだときの俺の感想だ。躯体の多くを占める強圧縮木材は腐敗が進んでいた。湿った床、戌猫畜生ワンニャーの白骨死体、下水の臭い。壁には生命セフィロトやら空飛ぶ宮殿ヴィマナ落書きグラフティ大災厄ビッグ・パーティー以前に存在していたパリの地下納骨堂カタコンベにように、誰かが生活していた跡も残っていた。引き裂かれた座布団ざぶとんやソファー、膨大な数の酒瓶と吸い殻が散乱していて、通路を塞いでいた。とはいえ、人の影などない。すでに退去したか、排除されてしまったようだ。

競技場遺産スタジアム及び巨大樹ビッグ・ツリーの取り扱いは、徳川宗とくがわむねはるにより留保ちょいまちされている。この醜悪しゅうあくな遺物をあえて残すことで、肉体ウツワがない吉宗ヨシムネさらくびにしたかったのだろう。

巨大樹ビッグ・ツリーの屋上、競技場遺産スタジアムは静寂に包まれていた。

内部の照明は点灯されている。取り囲むように、数十メートル以上にくみ上げられているのは、錆びだらけの鉄製の足場だ。

総勢一五〇名に近い捨駒旅団ポーンズ・ブリゲードは、各々が武器ウェポンを構え、準備セタップは完了。金属バット、電動鋸チェーンソー、ハンマー、槍、琉球暗器スルチンなど凶器エモノ見本市ギャラリーになっている。拳銃チャカなど中距離用銃火器の使用は控えるように指示した。同士討ちは避けたい。白兵戦ハンド・トゥ・ハンドで確実に潰していく。

黒ずくめの集団バラガキが送る視線は二か所に集中していた。一つは眼前にそびえる競技場遺産スタジアム、もう一つは俺だ。

寒山カンザン先生」殻馬カラバが指示発令用の電子笛ホイッスルをコートから取り出した。

「わかった。行け」

殻馬カラバ電子笛ホイッスルを掲げ、ボタンを押し込む。甲高い電子音が周囲に響く。

合図とともに、武器ウェポンを携えた黒い軍団クランは大声を張り上げ、場内に飛び込んでいく。足音だけで地響き。

震天駭地しんてんがいちですね」

殻馬カラバが微笑みながら、銀フレームの眼鏡を指で直した刹那。

炸裂音PAN

直したはずの眼鏡が吹っ飛んだ。

殻馬カラバの躰は音もなく、その場に崩れ落ちた。右目の位置に大きな黒い穴。

銃弾。

殻馬カラバの顔に空いた穴からは、どす黒い血がだらり。

巨大樹ビッグ・ツリー外からの狙撃スナイプ

名無しのパンクスジョニー・ドゥだ」俺は叫ぶ。身を伏せる。「狙撃屋スナイパーがいるぞ。周辺の建物か空中公道の上にいるはずだ」

またも銃声。護衛トリマキの一人が肩を撃たれて倒れた。

致命傷クリティカルではないようで、すぐに立ち上がったが、時既に遅し。炸裂音と同時に、今度は頭部が吹っ飛ぶ。

一人じゃない。何人か、狙撃者スナイパーが配置されている。

混乱カオスはさらに加速うぇいした。

今度は神たる東京デウス・トーキョー咆哮おらぁ極東万里天蓋キョクトー・グレート・ウォールを支える二〇〇〇メートルの主柱メイン、六本の郊外縁補柱サブから爆音。瞬く間に火の手が上がった。極東万里天蓋キョクトー・グレート・ウォールがねじれ、不協ふきょう和音わおん五圏東京セカイを覆う。俺の護衛トリマキたちが叫ぶ。

「ざけんなっ! 空が、空が落ちてくる!」「武装反抗主義者ナクサライトのテロか」「おいおい、渋谷天使の輪シブヤ・エンジェル・ハイロゥ崩落ジェンガしたぞ。ハハハ」

風雲急を告げるヘルター・スケルター

宗春ムネハルのしわざか。神殺かみごろしでも実行するつもりか。吉宗アバレンボウ転生者イタコはついでに。天蓋の欠片が飛来し始めるフォール・ダウン

直感が告げる。いやちがう。

突如始まった大破壊ドッカンは、東京トーキョー中に広がっているようだ。音でわかる。ビルや首都高シュトコーが倒壊している。これは、破壊行為テロではない。

極東驚天動地起動チェンジトーキョー・スイッチオン予定通りの破壊タイムボカン。今この瞬間、すべての可変機構が稼働しているだろう。これは摂政セッショーの意志なのか。いや、奴は自白ゲロしていた。都市マチを読み取って、実行するだけ。

幸運にも、巨大樹ビッグ・ツリーは改装をされていない。いずれは影響が出るにせよ、まだ安全だ。俺は身を起こし、競技場遺産スタジアムへ向かう。足場を潜り抜け、施設内へ。

闇が拡がるコンコース。左右に拡がる長い通廊。もうすでに捨駒旅団ポーンズ・ブリゲードの先発隊の姿はない。ただし交戦は始まっているようだ。頭上やコンコースの奥から、金属音や喚き声の微細な音が反響している。

くそ。俺は舌打ちをし、バットを構え、コンコースを抜ける。

今度は一気に視界が開ける。

競技場遺産スタジアムの観客席だった。

コンクリートの段差がフィールドを取り囲んでいる。俺がいる場所は一層目の観客席。頭の上には、二層目が輪状に展開していた。競技に使用されていたフィールド。白いシートが敷かれ、その上には百台近くの大災厄ビッグ・パーティ以前に活躍した骨董車両クラシックカーが無造作に放置されていた。クラウン、カウンタック、シボレー・シェビー・ノヴァ、シーマ、どれもツヤツヤに磨かれている。囲うように、クレーン車が数台。

フィールドのど真ん中には、灰色のカローラⅡ。

捨駒旅団ポーンズ・ブリゲードの団員は、フィールド内や観客席に散り散り。フィールド内で骨董車両クラシックカーのボンネットに上ったり、陰を覗き込んだりしている。広大な観客席でも分散していく。

だが、他圏ヨソの奴らも転生者イタコもいない。

冬空では、極東万里天蓋キョクトー・グレート・ウォールの崩落が進む。

意味不明。捨駒旅団ポーンズ・ブリゲードにおけるナハト。この半年、それは戦いではなく、集団で個を追い立てるイビりだった。今夜は明らかに違う。ここに敵を追い込んだのはない、俺たちが誘導こっちだよされた。

突如として戦略を持った集団しゅうだんとの闘争へと変貌している。加えて、都市全体での崩壊まで。もはや俺が指示を出したところで、捨駒旅団ポーンズ・ブリゲードの連中を制御できまい。

不思議なことに。それほどバグっていなかった。

だからどうした。

という感情が胸にこびり付いて、離れないからだ。

今度は背後バックからばく発音はつおんが響き渡る。次々に連鎖的れんさてきに何かが崩れ落ちる音と衝撃で躰が痺れる。足場が爆壊された。俺たちを閉じ込めたのだ。

続けざまに、頭上からも爆発音どかーん

限界ギリまで延伸されているクレーンの先が吹っ飛んで、何十メートルもあるアームごと煙を上げながら、横転する。一台が倒れるごとに轟音ごうおん。はずみで巨大な鉄球レッキングボールが観客席を損壊。

大袈裟だ。

俺が呆然ポカンとしている間。事態は動く。一気に戦闘員ソルダートが選手入場口から湧き出るウジャウジャ。分散していた俺たちは、致命的だった。

猿どもは皆殺しエイプ・ア・ゴーゴー・ヘヴン

震驚おったまげする捨駒旅団ポーンズ・ブリゲードの団員は状況を把握できず、一方的に虐殺ジェノサイド。二階席から放り投げられる。壁際ギワ刺殺さしころされ、銃撃ガンシャドタマが吹っ飛ぶ。中年少年タミオ生首ペッツが、フィールドから観客席に投げられていた。反撃している団員もかろうじており敵を幾人か巻き込めているが、このままでは殲滅バタンキューの憂き目に遭う。逃げるにも競技場遺産スタジアムの外には、腕利きの狙撃手スナイパーが手ぐすね引いて待っているはずだ。まるでどろふね阿鼻叫喚ノヒメイノウズだ。区外くがいに脱出できれば幸運ヨシ

寒山カンザン先生!」

ヒステリックな女の叫び声は、後方バックからだった。

振り向くと、目を見開いたニワトリが立っていた。立派に逆立トンガっていた真紅の鶏冠トサカは、横に流れて倒れている。顔や服はすすで汚れていた。腹にはガラスの破片がいくつか突き刺さっており、口元から血が溢れている。

「ヒト、り」時折全身で痙攣けいれんするニワトリは涙をとめどなく流している。「コロシタ。ころしましたァ!」

ニワトリはそれだけ告げると、くるりと身をひるがえし、ふらつきながら、出口の方向へ向かって歩いていく。俺は呼び止めなかった。よく見れば、他圏ヨソの奴らも戦闘員ソルダートとは異なる集団に襲われている。汚れている格好カッコから察するに、地下住民モーロックたちだ。いよいよ狂乱ヒャッハーは止まらない。

五人ほどの戦闘員アホンダラが、俺に向かってくるが、背骨を折り顔面を潰して瞬殺キルする。

金属バットを握りなおす。汗で掌が湿っている。

フィールドの中央に目を向ける。

カローラⅡのボンネットにかげが二つ。今まで車両の陰に潜んでいたのだろう。

一人は中年デュード転生者イタコだった。引き裂かれたポロシャツはぐしゃぐしゃになり、疲弊ゲッソリした様子で肩を落とし泣きまくっている。見ているだけでも、五月蠅うるさい。

その脇で、背筋を伸ばして立っていたのは、黒化粧コープス・ペイントの男だった。

つるりとした頬。

飄々ひょうひょうとして何を考えているか分からない仮面顔ポーカーフェイス。だぼっとしたパーカー。

悪戯イタズラな目つき。

薄く微笑んでいる。

拾得ジットク

 

その瞬間、俺は理解した。

首謀ケツモチ拾得ジットク

お前の愚かな母親ハーリーティノメしたからか。そんなに俺のことが気に喰わないのかよ。

バットを握りなおし、観客席からフィールド内へ飛び込む。渾沌カオスとなっている乱戦ランブルの渦中を抜けていく。

拾得ジットクは、【第二圏】を裏切った。羽田空港大一番ハネダ・アルマゲドンを機に、拾得ジットクは反逆者となった。

奴は闇雲やたらめったらに戦うタイプではない。ここ数カ月にわたって、準備コソコソしてきた。立案者である拾得ジットクは俺と同じことをした。他圏ヨソに接触、仲間を増やし、勢力を拡大させた。他方、他圏ヨソ弱体化へろへろしたと錯覚するように、参加者を極力減らしていたのだ。

宗春ムネハル享楽主義者たのしんだもんがちだ。愉しい途を選ぶ。宗春ムネハルは当然、目を瞑り口を閉じ耳を塞ぐみざるいわざるきかざる

違うな。それは違う。

この破壊、このナハトに、もっと大いなるものを感じる。きっと、各ビルの調和メンテを司る管理者ビルエムたちは、一斉に街の底へ身投げDIYしているだろう。

俺は最も高い位置からこの街を見下ろしてきた。

だからわかっている。

新しい出発の日ビッグDデイ

神たる東京デウス・トーキョーからすれば、人工智脳AIの醜い政争ゴタゴタなんかチョロいものだ。吉宗ヨシムネ宗春ムネハルさえも所詮同種同等ドングリ東京の宵トーキョー・ナハトなど巨大な東京トーキョー――都市、圏、個人――のシステムの緊張を和らげる余剰アソビ

今夜はもっと恐ろしいことが起こる。

第二次東京復活トーキョー・ラザロⅡあの夜をもう一度トゥナイト・イズ・ザナイトⅡ

断捨離アポカリプス自己破壊ドンガラガッシャン再設定ガラガラポン

つまり東京転生オカワリ・トーキョー

激動万難の壱萬日10000デイズ・オブ・サンダーを耐えた宇内うだいの他都市には復興リブートの兆し。東京トーキョーという一都市がいつまで万国万都をけん引できるのか。

可動構造を追加した変形建築群イデオン。突発した都市変形トランスフォームは、都民からすれば東京トーキョー崩壊オワリだ。何千万人もが命を落とすだろう。

機械仕掛けの万死サヨナラ・エクス・マキナ

だが、神たる東京デウス・トーキョーが終わるわけではない。

時計仕掛けの再生クロックワークス・アシタ

人間サル現実リアル都市ハコを合わせるのではなく、世界で最も偉大な場――東京とうきょう――であることを維持するために自らを最高の都市すみたいまち変貌チェンジさせ、その場に適応可能な新人類サイバー・ビーイングを住まわせる。神たる東京デウス・トーキョーは既に人間つちくれ修正しイジり最先端から加速した存在ホムンキュライを生み出している。

巨大電脳天国バーチャル・ヘブン暗部あんぶ生成ジェネレイトされていく裏通りの悪童たちバックストリートボーイズ・トゥー・バッド

奴らが次世代ニュー・タイプ新人類サイバー・ビーイングだ。

いや、待望されたガチ人間ニンゲンかもしれぬ。

第一世代オールド・タイプの俺たちは東京トーキョーの掌の上で踊らされている。いわゆる異端者アノマリーは、強化人間サンプルだ。お試しエクスペリメント

駆逐バイバイされる第一世代オールド・タイプ限界げんかいはなにか。

単純シンプルだ。身体しんたい能力のうりょくの不足。もっと飛べた方がもっと飛べるエクセルシオール。既存人類は地球上で繁殖はんしょくするには十分だったが、東京トーキョーで生活するには肉体ボディ脆弱ヨワすぎる。

拾得ジットクがどこまで理解しているかは知らない。

奴は神たる東京デウス・トーキョー意思いしとは無関係に、新宿区シンジュククが会場として選ばれるのを虎視眈々こしたんたんと待っていただろう。今夜は初っ端ハナから、俺が率いる捨駒旅団ポーンズ・ブリゲード新国立競技場スタジアムへ誘うように目論んでいた。転生者イタコを開始早々に確保ゲットすると、新宿御苑ギョエンをちんたらと南下した。爆薬ばくやく狙撃手スナイパー新国立競技場スタジアムの周りに配置させるための時間稼ぎだ。まさか、名無しのパンクスジョニー・ドゥまで味方にするとは。

ただ今の状況。都市崩壊が進むなかで、拾得ジットクには撤収をする気配がない。目的は他圏による捨駒旅団ポーンズ・ブリゲードの壊滅ではない。

俺のタマだ。

真っ直ぐ五〇メートル先。

拾得ジットクが立っている。

嗤ってんだか、無表情なのか、意味不明理解不能WTF

俺は説得すべきか。

東京トーキョー自殺ハラキリするんだ、一緒に逃げるぞ。

いや、ふざけるな。

拾得ジットクに引導を渡す。骨董車両クラシックカーのボンネットに脳味噌ヒトミソをぶちまけてやる。ナイフで、贓物オルガンまで切り刻んミジンでやる。

〈おい、あいつはなんだ〉

宗春ムネハル。脳に直接ダイレクトか。困惑の声。

やはりこいつは、拾得じっとくの存在を感知していただけで、その価値を正しく理解していなかったのだ。

「いまさらなんだよ。〈俺〉と繋がったから、やっと気づけただけだろ。お前は拾得じっとくが何をされたかもわからずに、将門派まさかどは連中クソほんろうされていたくせに」

ツブすんじゃない。吉宗よしむねと一緒に捕らえてこい、約束チギリを守れ〉

「無理だ。俺みたいな馬鹿ばかでもわかる。お前はこの街に仕掛けてきた変形機能を稼働させているが、なぜそんなことをしなきゃいけないのかは理解できていないのだろ。どうせ、米将軍アバレンボウに関連するだろう程度の予測。このナハト結末けつまつまでは見えていない」

獅子しし陣中じんちゅうの虫ケラごときがつけあがる。……交渉は決裂だ〉

走り出す。

宗春ムネハルは、調伏ちょうぶくの対象として反乱者ゴキブリ認定をした俺に最期の試練しれんを与える。

まず天狗テングが飛びかかってきた。「俺が見えッか」バットを振るうまでもない。右拳で殴り飛ばすと、観客席で潰れたオシャカ。次は、太っちょ斉天大聖セーテンターセー膨張怒張ボッキボキ餡麺麭アンパンみてえに破裂寸前パンクすんぜん。サッカーキックで場外まで蹴り飛ばすキックアウト。すべて、下僕たる証明インプラント・デバイスが魅せる幻影ゴーストだ。三〇メートル、まだまだ真性しんせい幻覚げんかくとのおつきあいは、終わらないイツナロウバ。お次は血生臭い薬売りブラッド・サースティ・プッシャーズ。こっちは金属バットで二人まとめて、かっ飛ばすアンパンチ。ドカンと一発、場外本塁打ホームラン最後サゲに、ア美顕漢字男アビケンカンジ混成体オンスロートが襲来。「弩墜堕屡念ドツイタルネン!」俺たちは互いに限界カンストまで痛撃を与えあい、やがて混成体オンスロートは満足した様子で塵と消えた。

あとは、拾得ジットク

今日が俺の『転機Xデイ』だ。

いや、これこそが『祝福ビラヴド』だ。

俺の瞬間最大マイ・ハイ

神たる東京デウス・トーキョーはこんなことで俺を試しているつもりか。

拾得ジットクノメせる。

祝福ビラヴド

拾得ジットクもう十分だノー・モア・ライズ。小さな嘘をいくつも重ねてくれたな。義理の両親パパママがお前を育てたとは言い難い。幼少期から成人するまでに、四回も養子縁組を繰り返し、その都度、里親パパママが変更になっている。

あと、一〇メートル、拾得ジットクと目が合う。

拾得ジットクはポケットを弄り、九寸釘ナイン・インチを取り出した。

九寸釘ナイン・インチ

勝手に人の家に入りやがったのか。確かにお前のものだが、傲慢ごうまんだ。俺の書斎を目の当たりにして、どう思った。お前の思い出モノを保管していた俺のことをどう思った。哀れな奴だ、と優越感ゆうえつかんにでも浸ったのか、マザコンが。お前を心から慕っていたマルちゃんさえも、まともに向かい合えなかったお前が何様だ。ぶっしてやる。どうせ俺だって、今宵こよい死ぬ。不自然ふしぜんだ。父親パパさえも塵芥ゴミ同然にバラしたくせに、お前だけ生き残っているのが不自然ふしぜんなんだ。クソッタレの父殺しマザーファッキン・ファザーファッカー。全部知ってんだ。俺が実母マムノメさなきゃ、眼中になかっただろう。俺は、花子ハナコさんかマルちゃんの補充品ツギタシだ。

いい機会だ。教えてやるよ。弐号ニゴさんがお前に何をしでかしたかを。

実の息子ガキを見捨てたどころじゃない、もっと外道邪道ヒトデナシだ。お前をピトスにした。

五圏東京セカイを制した俺には、祝福ビラヴドにより様々な恩賞おんしょうが与えられた。最も有意義だったのは、時間だ。俺はまず弐号ニゴさんの周囲まわりを骨の髄まで調査した。やがて将門派まさかどはへの関与にたどり着くと、さらに深化しんかさせ徹底取材リサーチした。東京トーキョーに潜む将門派まさかどはをあぶり出し、関係者を拷問シバキチラした。大衆紙タブロイドさんも例外ではない。

そこまでやったんだ。真相ガッデムにはたどり着いた。あまつさえこの東京トーキョーを統べる摂政セッショーさえも把握できていない淫祠邪教いんしじゃきょうに関わる事実ファクト

秘密青年最高機密ヒミツ・ボーイズ・トップシークレット

拾得ジットク本名マナ織羽彰逗オルハ・アキズ

将門派まさかどはと呼称される過激集団セクトは、摂政設計構想が持ち上がった頃に結成され、対抗策として将門まさかどを開発した。だが、滅びの子アンチ・セッショーはまだ幼く脆弱で、成長には時間が必要であった。将門派まさかどはは、将門スター誕生たんじょうを目指して摂政から隠れる秘術インビジブル・ワンを編み出し、長年にわたり深謀遠慮シスしてきた。その技法テクは大いに失敬カリパクした。

不届きものどもは、幼い拾得おまえに何を封印ピッコロしたと思う。

超越的魂ウルトラソウル反社会的日輪イケナイタイヨウ新皇ニューサン

平将門たいらのまさかど

大欲非道ワルであった弐号ニゴさんもまた将門派まさかどはであった。

平将門たいらのまさかどは何か。第二次東京復活トーキョー・ラザロⅡとも違う、東京進化ラブ・レボリューション可能性もしも全知全能たる東京ビッグ・デウスを支配下に置き、その領土拡大エミュレートを実行する。進化タテではなく拡大ヨコ復興リブートが進む世界中の主要都市メガロポリスをすべて東京トーキョー複製コピーとする。そうすれば、東京トーキョーは世界を制する。

ただの過激派セクト発想ノリだ。必定ひつじょう蜂起ほうきに備え、将門マサカド目覚めし者ウェカピポの子息である拾得ジットクの脳に収められた。起こったことは悲劇エディプスだ。弐号ニゴさんは平将門たいらのまさかど移植コピペしたにも関わらず、顔を合わせても息子、いや聖櫃アークだと気づかず、最期フィナーレにはノメされた。

原因は実母マムだ。実母マム拾得ジットク将門派まさかどは魔手ましゅから守護するために存在を隠匿いんとくした、と言ってやりたいが、そうではない。弐号ニゴさんの気を引くために、どこかに拾得ジットクが消えたとわめいた。混乱が起こった。実母マム将門派まさかどはうちゲバに巻き込まれ、第三圏に流転るてんした。一方、拾得ジットクは施設や家庭をたらい回しにされていて、元々誰の子息ガキであったかもわからなくなっていた。

言い直そう、茶番ドリフだ。

時計の針を今に戻すバック・トゥ・ザ・ファッキン・フューチャー

つまり、今宵は特売日XXXデイであるのだ。神たる東京デウス・トーキョーは、摂政セッショーたちの動乱に幕を下ろし、自身で変態新生メタモルフォーゼし、最上位脅威マンモス・リスクである平将門たいらのまさかどほふるのだ。

すべてもうどうでもいい。殺しあおうFFF

九寸釘ナイン・インチを奪って、脳天のうてん打ち込ブチコんでやる。

もうすぐだ。バットを握りなおすグリップ

ノメす。祝福ビラヴド。バリヤバい。

拾得ジットク九寸釘ナイン・インチ先端サキを俺へ向ける。

ノメす。

調子バイブス最高サイコー俺の瞬間最大マイ・ハイ

ノメす、ツブす、バラす、チラす、タオす、オロす、イカす。

というところで。

拾得ジットクの脇でうなだれていたはずの転生者イタコが、ふらりと立ち上がる。

あれ、なにこいつ。

転生者イタコの手には、どこから持ってきたのか、匕首ドスが握られている。

目を見開いた刹那せつな拾得ジットクの腹に刃物を突き立てた。

拾得ジットクの視線が俺から転生者イタコに移る。

俺の脚が止まる。祝福ビラヴド、じゃないのか。

拾得ジットクが腹を押さえて、どさりとカローラⅡのルーフに転がる。口角を痙攣ナムさせながら、薄っぺらい目つきで俺を見つめる。何か口にしているが、周りの騒音でなにも聞こえない。

東京トーキョーはうるさい。

俺は東京トーキョーすべてAtZを差し出した。なのに。

ぶっ倒れている拾得ジットク腹部ハラから、血が流れるドバドバ

祝福ビラヴドはどうしたの。

名前を呼ぶ。青ざめた転生者イタコ震えたビクリ拾得ジットク無反応シカト

カローラⅡの前面フロントを駆けのぼる。膝を折り、拾得ジットクの顔を覗く。

視線は明後日アサッテ馬鹿ダボみてえな真っ黒い面コープス・ペイントだった。

微笑んだまま。

こっち見てくれよ。もっと話そうよ。

拾得ジットクは死んでしまった。どうして、どうしてだ。

いよいよ巨大樹ビッグ・ツリーの倒壊が始まり、新国立競技場スタジアムも傾き始めた。

入場口だった。

純白の装衣ピュア・ホワイトまとった集団。激震にも動じずフィールドを歩み進む。児童ガキばかりだ。

裏通りの悪童たちバックストリートボーイズ・トゥー・バッド闇の中で踊る妖精タイニー・ダンサー・インザダーク天衣無縫乃生命体ナチュラルボーン・パーフェクト

極東叛逆眷属レベル・ファミリアをけん引する人物を目にして、思わず苦笑いしてしまう。

マルちゃんだった。純白の上下セットアップ。欠けた耳。無化粧すっぴん黒髪ストレート

この宿命カルマは、俺がナハトに参加するよりもっと以前マエから始まっていた。

拾得はマルちゃんと出逢ったボーイ・ミーツ・ヒューマン

すべて全知全能たる東京ビッグ・デウス意思ノリか。

人類よりも人間らしくモア・ヒューマン・ザン・ヒューマン原初の人間ザ・ファーストであるマルちゃんは、真っ直ぐ俺らを見つめている。

その魂には何が映っている。

彼女はこの結末けつまつを知っていたか。本当に拾得ジットクを愛していたか。

くだらないWTF

周りを見渡す。まるで奈落ならくだ、東京の宵トーキョー・ナハトありとあらゆる瑞光オール・オブ・ザ・ライツが乱反射する極彩色ごくさいしき電脳大都市サイバー・メガロポリス。至る所で煙が上がり、叫喚きょうかんや爆発音が響き渡っている。天蓋てんがいは砕け落ち、満天フルスペック星々ステラが俺たちを見下ろしかみ遺体ホトケ生者ナマに対して、みんな死ぬ、みんな死ね、と告げている。

俺たちはもうこんなくそたれな世界にいる必要はない。脱出するべきだ。

寒山拾得対神たる東京カンザンジットク・バーサス・ザ・ワールド

俺は立ち上がり顔が引きつっている転生者ソレの顔面を目がけて金属バットを全力で振りぬくと拾得ジットクが落とした九寸釘を拾い東京なんてほんと嫌いだよていう愛を込めておもいきり自分の首筋を下僕たる証明インプラント・デバイスごとぶち抜く。

 

 

*本記事のキービジュアルは永良新が作成しました。