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平大典「【対東京《バーサス・トーキョー》】Versus Tokyo」(8)

平大典「【対東京《バーサス・トーキョー》】Versus Tokyo」(8)

 

負け犬の日々は終わったドッグデイズ・アー・オーバー

一年が経過すると、もうすべてが変化してしまった。

俺は確信している。神たる東京デウス・トーキョーに俺は愛されているのだ。

東京にとって最高の東京少年ユアー・ベスト・トーキョー・ボーイ

羽田空港大一番ハネダ・アルマゲドンの翌週、俺が書いた裏通りの悪童たちバックストリートボーイズ・トゥー・バッドに関するルポタージュが第二圏極東きょくとう文化ぶんかしょうの候補作品に選ばれたノミネート。一か月後には受賞決定、俺は新帝国ネオン・テーコクホテルで開催された授賞式セレモニー駄文スピーチを読んだ。その日の夜、葉霊ハレと別れた。

東京の宵トーキョー・ナハトに参加する前の俺は、路傍ろぼうの糞くそ。太っちょ斉天大聖セーテンターセーバラすと改善、血生臭い薬売りブラッド・サースティ・プッシャーズバラして伸びる。羽田空港大一番ハネダ・アルマゲドン以後は、もはやこの世の春。

羽田空港大一番ハネダ・アルマゲドンは、拾得ジットクだけでなく、俺にとっても転機Xデイだった。

 

第二圏における経済カネ政治ウソ法律ワナ文化ムダすべてが俺の思うがまま。

一例。

都内先端トーキョーヘッドの高等教育機関である東宗大学とうそうだいがく。俺は客員きゃくいん教授きょうじゅの立場だった。事務局に電話して、理事会に招聘しょうへいしてもらい、貧困街ゲットーの生徒たちが無料タダで受講できるように手配した。学長トップは、「青春氏アオハルシの慎ましく謙虚けんきょな提案をたたえます」と記者会見で報道陣に告げた。

万事がこんな感じ。

漢字カンジ』や『ア美顕アビケン』などの怪物モンスターたちを筆頭ひっとうに、三〇名近くの戦闘員ソルダートたちを一晩ワンナイで血祭りにあげたという羽田空港大一番ハネダ・アルマゲドンでの成果は、東京の宵トーキョー・ナハト史上最高のもので間違いないようだった。つまり、俺に未曽みぞの祝福ビラヴドをもたらした。【第二圏】の連中の間では、拾得ジットクバラした奴らも俺がバラした、という噂が流布るふされている。拾得ジットクの名は忘れ去られ、口に出す人間はいない。

あの夜だけでワンナイト・カーニバル。俺は神たる東京デウス・トーキョーから大いなる愛ビッグ・ラブ享受きょうじゅする人間になったのだ。多分、弐号ニゴさん以上に。

高さ九八三メートル、一七八階。俺は住居兼事務所を、渋谷区シブヤク特高層ビルの最上階てっぺんに構えた。

超圏的ちょうけんてきな都市改修計画、基礎強化と変形機構導入は、三か月前にほぼ予定通り終了ダンした。

オフィスからの眺めはよい。目につくのは、二階層下で造設が進捗しんちょくしている渋谷天使の輪シブヤ・エンジェル・ハイロゥ。都市拡充計画成就の記念碑的象徴シンボルトーラス上ドーナツ驚異の部屋ヴンダーカンマー展開てんかいし、文化財保護の名目で娑婆しゃばから収集させた貴重な蒐集品コレクションを展示するらしい。摂政セッショーは、東京トーキョー弥栄いやさかを讃え、自身の権威マスターベーション三千世界さんぜんせかいに知らしめたい。下層の住民パンピーの目には、天から降り注ぐ光の輪が映る。俺はそれを見下ろす。

なぜここを。神たる東京デウス・トーキョー胎内たいないで最も高い場所だからだ。「俺はキングコングだ!」と半裸エガシラ姿で屋上から叫んでも、誰にもとがめられない。

青春アオハル、久々だな」

客間には懐かしい客が来訪らいほうしていた。

戌猫イヌネコさん、わざわざすいません」

戌猫イヌネコ繭糸ケンシ

散切り頭ショートカット二〇世紀製クラシック羊毛織ツイード上着ジャケット絹素材シルクのバンドカラーシャツ、愛用している丸眼鏡ラウンド。足元は、ステラ・マッカートニーの白いスニーカーデッド・ストック

俺たちは、客間の長机に向かい合って座る。足元や壁はガラス張りで、その下にはパネルが敷き詰めてあり、大草原の環境映像が流れていた。俺は全情報集受容疑似瞳スマート・コンタクトレンズ指輪型端末フィンガー・デバイスで操作して、海辺うみべのものに切り替える。波の音が耳に届き始めると、戌猫イヌネコはふんと鼻を鳴らした。

うみまで手に入れたな。たいそう、出世したもんだね」

「ええ。おかげさまで。戌猫イヌネコ姐さんも部長に昇進したとか。おめでとうございます」

「わが社はお前の本で大儲けだよ。もう軽々かるがるしく書いてくれなんて頼めやしない」

専属の秘書兼護衛せわがかりが入室して、ティーカップに淹れた珈琲こーひーを置いていく。

「そんなことないですよ。俺の力じゃない。いつ落ちぶれるか」

本当のことだ。神たる東京に見捨てられればゴッズ・ゴナ・カット・ユー・ダウン俺は終わりジ・エンドだ。

謙遜けんそんするなって」

「それで、今日は何の用事ですか?」

軽々かるがるしいお願いだ」戌猫イヌネコ丸眼鏡ラウンドを直し、俺をまっすぐに見据える。「上役うわやくから打診だしんしろと指示があってな。ウチで本を出さないか。エッセイでも評論でもなんでもいい」

「なるほど」

少し間が空く。偽物ハリボテ波音なみおとが客間に響く。

「と言いつつ。もう半年以上、どの媒体ばいたいにも書いていないだろ? 不調スランプか?」

「わからないんですよ」

「ほぅ」

「ただ、書く気が起こらないのです」

「売れっ子は大変だね。……長いこと調べていた平将門たいらのまさかどはどうだい?」

「正直、かなりの労力を割きました。でも期待外れで、あまりおもしろい結果もんじゃなかったです。将門まさかどに係る言説は旧世代オールド人工智脳AIを基にした戯言たわごとが大半、という結論が妥当でしょう」

「オオバラ様、というのは誇張ハッタリか」

「ばらばら。……有名な法螺話ほらばなしのひとつに分散結合主義エグゾディアニズムがあります。ある一派サークル徳川宗春トクガワムネハル追討キルされかけた平将門たいらのまさかどを五つか七つの要素エレメントに分け、東京トーキョー各地に分散させた。そして、その要素エレメント再度集結ドラゴンボールさせれば、新皇ニュー・サンが復活して現体制を打ち倒すという伝承ウワサがあるんです。くだらない。都内口コミ拡散トーキョー・エア・ランナーズはそんなんばっか」

鋼の極東メタル・イーストを支配する統治者ハデズキへの不満は、大っぴらには口にできない。東京トーキョー都民は想像力がたくましい」

「ええ、ほかにも書くべきネタはあるかと。とはいえ戌猫イヌネコさんがもし希望されるなら……」

だが最後まで待たずに、戌猫イヌネコは席を立つ。

「ま、気が変わったら連絡してくれればいい。上席からの依頼は打診だしんしてこい、だけだ。私の立場が悪くなりそうになったら、そのときはそのときだ。恩を返してもらうさ」

「ゆっくりしてもらっても」

戌猫イヌネコは軽く笑んでから、丸眼鏡ラウンドを直しつつ扉に向かう。

「ここは、酸素が薄い。それに、海はキラいなんだ」

はっきり言おう。

今、二三時間四五分は幸福ハッピーだ。残り一五分だけ気が狂いそうだ。

 

不思議な客は続いた。

次に訪ねてきたのは、マルちゃんだった。

ベロア素材のジャージのセットアップで、気楽ラフ格好ナリだった。挨拶もほどほどに、客間に招き入れる。海辺の環境映像には特に反応せず、ソファーにゆったりと腰を下ろした。

「さすが、潮流シーンの立役者。青春源治アオハル・ゲンジ名前マナを隠さずに生活しているだなんて前代ぜんだい未聞みもん。で、住んでいる場所も、天上人あまんちゅ。いちばんカミサマに近い位置じゃん」

「神など空の上にはおらんだろ」

すべてが偽物ハリボテに感じる。過大な祝福ビラヴドを得た代償だいしょうなのかもしれないと割り切っている。なぜなら、俺はもうこの生活を手放せない。

「なんか虚無主義者ニヒリストっぽい」

マルちゃんは無邪気に笑む。長く伸ばした髪で耳を隠している。

「だよな。仕事はどうなの?」

「んー、好調かな。来週、アタシが立ち上げに携わってきた育成計画プロジェクト出身のアイドルが五反田ゴタンダでお披露目になる。ちっさいハコだけどね。アタシが歌姫ボーカルやっているバンドも評判いいし」

「よかった」これは本音だ。「さすが、最先端系女子ウゴウゴルーガだな」

ナハトに参加しないと不幸になる。これは予言よげん自己じこ成就じょうじゅ自己催眠プラシーボの類の心理的な要素が、過分に影響しているのかもしれない。

マルちゃんは客間を見回す。

「どうやったら、こんな生活送れるかな」

拳銃チャカで、友達ツレ母親ママドタマをふっとばせばいい」

「ひど」

「ああ、最悪ファックだ。……マルちゃんはもう東京の宵トーキョー・ナハトに戻らないのか?」

「うん」マルちゃんは下を向いた。「死にかけたし、もう十分だよね。……拾得ジットクちゃん、どこにいるのかな?」

拾得ジットクには会っていない。行方知れずだ。

死んではいないだろう。勤めていた化学薬品会社を辞めた、という情報ネタは手に入れた。以後、消息しょうそくを断っている。

「わからん」俺はそれしか告げない。

「で、寒山カンザン先生は東京の宵トーキョー・ナハトでのし上がる」

「知っているのか」

あの日を境に、他の圏ヨソは急激に衰えた。というより、俺が第二圏おれらを強くした。

拾得ジットクに去られた俺は弐号ニゴさんがやらなかったことをやった。

まず、身近なところで殻馬カラバなどの弐号ニゴシンパ戦闘員ソルダートを仲間にした。それから、分散していた派閥ヨリアイをいくつか統合した。誰も断らない。

俺たちは過去類をみない規模の軍団クランを形成し、戦闘員ソルダート効率的にだんだかノメしていった。どんどんバラすと、他圏ヨソ戦闘員ソルダートは必然的に初心者ビギナーばかりになり、反面【第二圏】は手練ればかりになっていく。

一年もしないうちに東京の宵トーキョー・ナハトの性質が変貌へんぼうしていく。五圏の戦闘員ソルダートたちがバラし合うゲームから、第二圏おれら他の圏ヨソを一方的に撲殺虐殺おつかれさましていく狩場アソビになった。かわるがわる構成員が入れ替わっていた一三英傑13モンズターズはその半分の7にも達していない。つまり、均衡バランスが崩れたのだ。

弐号ニゴさんの懸念けねんは正しい。

「このままじゃ、崩壊ジェンガするんじゃない。軍団クランがでかすぎ」

俺は席を立つ。「説教キンパチならよしてくれ」

「だよね。でも、なんか心配だったからさ」マルちゃんは溜息を吐く。「……やだな、先生と顔を合わせると、どうしても拾得ジットクちゃんのことを思い出しちゃうし」

マルちゃんが帰ったあと、客間に残って海の映像を落とし、宵闇の中で俺はぼーっと窓の外を眺めていた。

それから、書斎の扉に目を向けた。

書斎にあるデスクの抽斗ひきだしには、拾得ジットクが置いていった九寸釘ナイン・インチがしまってある。もう半年以上、目にしていない。

弐号ニゴさんと俺には、決定的な相違がある。弐号ニゴさんは膨張ぼうちょうした組織ヨリアイがいずれ瓦解がかいすることを危惧していたが、俺にとってはどうでもいい。

で、珍客二人を相手にした俺は、確信していた。

二人を寄こしたのは、誰かだ。

今夜はなにかが起こる。意味はわかるし、理解もする。

だが、なにかはわからない。東京の宵トーキョー・ナハトがやってくる。

 

その夜は寒波かんぱが都内を包んだ。

午後の少しの間だったが、初雪はつゆきが舞った。万が一に備えて、極東万里天蓋キョクトー・グレート・ウォールでは除雪自動機動スノー・ウォッシュが待機していたようだが、積もるほどではなかった。

俺は事務区画で業務に関連するレポートを数本読むと、住居区画に戻った。流行の漫画画家に描かせた芸術作アートを何枚か飾ってある広間ひろまでじっとしていたが、やがて我慢できなくなった。シュプリーム骨董品ヴィンテージのダウンジャケットを着こんで、外出する。ドアを施錠ロックすると、防犯監視セキュリティシステムの作動が全情報集受容疑似瞳スマート・コンタクトレンズに表示された。

渋谷区シブヤク。特高層ビル群の最上階パレス。お向かいのビル。最上階に住んでいるのは、【第一圏】の誰か。以前はア美顕アビケンだったらしい。

俺は専用のエレベータで五〇階下の階層フロアへ向かう。そこから、東京無線タクシーを呼び出し、第四首都高速シュトコー移動クルーズする。

ここ半年、第二圏の経済は宗春以来ムネハルコノカタの好景気だ。摂政セッショー計算領域リソースが、俺たちのレイヤーに費やされている。東京の宵トーキョー・ナハトに参戦している俺にはわかる。他圏は明らかに劣化していた。社會、経済状況、治安、文化。

第二圏の夜景が豊潤ほうじゅんであればあるほど、圏間均衡バランスの崩壊を示唆しさしているのだ。

 

俺は馴染みのバーへ顔を出した。六本木ロッポンギ、特高層ビルの最上階。すべての照明が本物だ。全情報集受容疑似瞳スマート・コンタクトレンズ広告ニセは流れてこない。国会議員キンバッジ資産家トラ医者ドックなどの上級民バードマン顧客こきゃく入場料チャージだけで、かつての俺の年収だ。まどからは神たる東京デウス・トーキョー一望パノラマできる。渋谷天使の輪シブヤ・エンジェル・ハイロゥもだ。少し早い時間だ、客はまだいない。ロバート・グラスパーが流れる店内には、天然素材の薬草ハーブやスパイスで仕込まれた琥珀樹脂アンバーから漂う甘い匂いが充満している。

寒山カンザン先生」髭を生やした人相にんそうの悪い中年少年タミオは、上下スウェットにダウンジャケットを着こんだ俺を見るなり、笑顔を作った。「今夜は冷え込みましたねって、いやまた、チンピラみたいな恰好かっこうですね」

「俺がチンピラなら、中年少年タミオさんは極道ヤクザですよ」

バーの店主は、【第二圏】の戦闘員ソルダートであり、俺が所属する捨駒旅団ポーンズ・ブリゲードの一員だ。元ラグビー選手という屈強タフな躰の持ち主で、東京の宵トーキョー・ナハトの経験が二年以上の手練れベテランだった。が、俺が誘うまで、戦闘員ソルダートノメしたことがなかった。元々、ナハトのときには『第六天魔王ディアボロス』と名乗っていたが、さすがにキツかったので『中年少年タミオ』と命名した。

捨駒旅団ポーンズ・ブリゲードと名付けたのは、副団長サブを務めている殻馬カラバの趣味だ。

祝福ビラヴドの恩恵でこのバーの店長マスターに就任できた中年少年タミオは、俺が店に来るようになってから、さらに客足カセギが増えたと豪語ごうごする。俺は、中年少年タミオが他圏の戦闘員ソルダートバラしたからだと反論はんろんする。

「すいません、中年少年タミオさん。静かに飲みたくて」

「ちょうど、来るころだと思ってましたよ、こっちは。奥の来賓VIPルーム準備スタンバイさせますよ」

中年少年タミオは、墨常スミツネという名の女性店員バイトを指を鳴らして呼び、あれこれと指示を出した。髪の毛を後ろ手に縛っている墨常スミツネはそそくさと店の奥へ消えていった。

「サービスです」中年少年タミオ麦酒ビール一杯とつまみのナッツを差し出す。「最近も絶好調じゃないですか」

「他圏の戦闘員ソルダート初心者ヌーブばかりで、狩りハントがしやすい。そもそも、俺たちにおびえて出てこないのか、母数も少ない」

他圏の戦闘員ソルダートは八〇〇人はぐらい存在するはずだ。だが、ナハトに参戦するのは減少傾向にある。

単独ソロで狩りをしている奴らは、自分らのことがというか、腹を立てているようですね」

麦酒ビールを口に含む。「二、三度の勧誘オルグをすれば、たいがい俺たちの仲間になりますけど」

「とはいえっすよ」中年少年タミオは顔をしかめた。「やりすぎかもですね。仲間が増えることがいいとは限りませんよ。俺だって手柄立てにくくなるもの」

中年少年タミオ快活かいかつで正直者だ。下手なコビも売らない。

「たしかに」

「やることはやります。BOSSイル・ボスティーノの格言。……我さらに進もうとするがゆえに我あり」

中年少年タミオが顎髭を摩っていたところで、墨常スミツネが店の奥から来て、準備を終えた、と報告した。

俺は店の一番奥に設けられた押し扉付きの来賓VIPルームに移動する。

八畳ほどの空間には、黒革張りのソファーが設置されている。通常は予約していないと利用できないが、俺は特別SPだ。来賓VIPルームでも、照明は薄明りのままで、アウト・バーンというバンドのテクノポップ演奏が流れている。

ソファーに腰を下ろすと、先刻の女性店員バイト墨常スミツネ来賓VIPルームに入室してきた。

「こんばんは」

「なんですか、店員さん」

墨常スミツネは俺をまっすぐに見つめ、笑顔をひくつかせている。不自然だ。

寒山カンザンさん、怖い顔をするのはよしましょうよ」

俺はソファーに深く座り、小さく息を吐く。

三人目の珍客。

「お前、そっか。そろそろだとは思っていたけど」

「気付いているのですか??」

受肉じゅにくしたのだろ」

店員ではないソレは笑んだ。

「はじめまして、ですかね、私は徳川宗春トクガワムネハルです」

大都市メガロポリス摂政セッショー人工智脳AI

「だろうな」

「今日は全知全能たる東京ビッグ・デウスお使いパシリですが」

下僕たる証明インプラント・デバイスを通じて、降臨こうりんした。

宗春ムネハルがお忍びで下民げみんに会いに来るなどとは聞いたためしがない。

「もはやお前自身が、全知全能たる東京ビッグ・デウスだろう」

「まさか。みなが存在すると知覚している存在は、かみとして崇められない。価値もない」

全知全能たる東京ビッグ・デウスは違うか?」

「私でさえ、そんなものが実在するか疑っている。東京トーキョーには無限むげんに等しい隠し伝言イースター・エッグ物語ストーリーが埋まっています。願望ユメ傷跡カケラ下等な人類おさるさんにはそれらを読む能力チカラも時間もない。一方で、私はそれらを読み解き、この都市まちを管理してきた。……非常におもしろいですよ。東京トーキョーに編み込まれた存在は集合集結し、バカデカい一本の与太話クソを紡いでいる。終わらない東京、愛の物語ネバーエンディング・トーキョー・ラブストーリーです」

宗春ムネハルがふぅと溜息を吐くと、照明の灯りが二度ほど点滅チカチカした。全情報集受容疑似瞳スマート・コンタクトレンズには、『ティコ電磁異常TMA』という意味不明の表示。磁場が発生して、周囲に影響を与えているのか。

「はるばる受肉じゅにくして、伝言メッセージはそんなしょぼいものか」

「いやいや、焦らないでください。今日は神託オファーを授けに来たのです」

「何のハナシだ」

悪来の再来ブギーバック。ある中年デュードが鍵です」

テーブルの上に、参次元画像ホログラムが投影される。

疲れた顔をした中年デュードのバストアップ。見覚えはない。

「だれだ」

「この者は、有徳院ゆうとくいん、すなわち先代摂政exセッショー徳川吉宗トクガワヨシムネを受肉した中年デュードです。奴は、隠居謹慎を命じられるとすぐに、ある青年ボーイ肉体ボディ転移シフト出奔しゅっぽんしました。こちらも逃がせません。長年にわたる捜索さぐりの末、やっとこさ発見した。……次のよい、あなたにはこやつを捕らえ、私の元へ連れてきてもらいたいのです」

ナハトの最中に、人探しなどできない」

宗春ムネハルはくすくすと嗤う。

「次回は問題ない。私に敵対する奴らもこやつの存在に勘付いたようでして。そいつらも吉宗ヨシムネを手に入れたいのです。私に対抗する手段すべとして。戦闘どころじゃなくなる」

「そんな反動分子ゴロツキがいるのか?」

「ええ、以前からちょくちょく。第五圏の徒党は六年前、徳川吉宗トクガワヨシムネ拡張落胤アプデである五圏打倒ジ・エンダー人工智脳AI慶喜ヨシノブ〉を開発、直後に革命的革命万歳運動ビバ・ラ・レヴォリューション・アクション蜂起ほうきしました。まあ、開発者ごと東京湾のアビスに沈めましたけど。ほかには、大陸侵襲併合ビッグマウスAI〈関白秀吉モンキー〉、兵力養成ボーイスカウトAI〈後藤新平おおぶろしき〉なんかもいましたよ」

「で、今度は徳川吉宗トクガワヨシムネ本人か」

「どうやら浅薄アホタレな誰かが、第一圏か第四圏の連中サルをそそのかしたようでありますが」

「今からでも捕まえてくればいいだろ。なんで奴らもお前もわざわざナハトで動くんだ?」

叛賊はんぞくからすれば、ナハトにおいては下僕たる証明インプラント・デバイス経由での監視が弱まり、戦闘員ソルダートたちの肉体フィジカルの強度が増すのですからうってつけでしょう。私としては、捕獲ゲットするのが吉宗ヨシムネだけじゃおもしろくないですし。反逆の芽は出来るだけ摘み取ってしまいたい。ゆえに、次のよいは私が張った罠でもあります」

一石二鳥ほしがりやさんか」俺は小さく頷く。「成功すれば。相応の祝福バックがあるんだろうな」

「今度、【第六圏だいろくけん】を設けます。これは人による管理の実践特別圏プロトタイピング・レイヤーとして設定する予定です。下僕たる証明インプラント・デバイスによる過剰ヤリスギ庇護プロテクトもなくすのですが。……依頼の見返りとして、第六圏の権限全てをあなたに譲渡じょうとします。社會ソサエティを好きに書き換えリライトすればよいというわけです」

「うそくせえ。ほんとなんだろうな」

「嘘かもしれないです。しかし、あなたは私を信じるしかない」

デカい商談ビッグ・ディール

「ひとつ聞きたい。慶喜ヨシノブがいるのだろ、じゃあ平将門たいらのまさかども実在するのか?」

「はて」むねはるはふっと微笑む。「五圏東京最強となった男トップ・オブ・ザ・ワールドワールドワールドが、そんな妄信ガセに興味が?」

「聞いてみただけだ。昔から興味があるんで」

「ふむ。……久しぶりの俗世リアルです。ひとつ、私からも質問させてもらいましょう」

「は? なんだ」

「人は愛する能力パワーが強すぎる存在です。人はもちろん、動物どうぶつを愛せるし、物質モノを愛せるし、様態システムも愛することができます。……あなたは、東京トーキョーを愛していますか?」

俺は少し間を置く。

「さあ。わからんな」

「なるほど。まあ、そういうものでしょう」

一度頷いた宗春ムネハルは背を向けて、ふらっと来賓VIPルームから立ち去る。

同時に、腕輪型万能端末バングル・マルチ・デバイスからピープ音。

俺は席を立ち、来賓VIPルームから出た。

墨常スミツネは、ぼうっとしたまま立っていて、カウンターに立っている中年少年タミオは興奮した様子だ。徳川宗春トクガワムネハルの来訪には気づいていない。

寒山先生カンザンセンセー、始まります。不弄不止不撓不屈ジャガーノート全方向大打撃オールマルチラウンド・ビッグヒッター英傑退治モンスター・ハンター

「その異名、全然気に入らないのですけどね」

墨常スミツネはきょとんとしたまま目を開閉パチクリ

「まあ、店じまいしなくちゃっすわ。新宿シンジュクなんてのは、四カ月ぶりくらいですよねっ。前回は新大久保中華街ノエル・オークボ・チャイナタウンに追い込んで、二〇人くらい狩りましたからね。ワクワクするなァ」

「とりあえず、家に戻って準備します」俺は腕輪型万能端末バングル・マルチ・デバイスに指を添えた。

「いやいやお代は結構ですよ」

中年少年タミオ満面の笑みニカニカで俺を送り出した。

 

*本記事のキービジュアルは永良新が作成しました。