◆作品紹介
タイプライターを叩き続ける猿はいつか必ず、あらゆる可能な文字列を出力する――よく知られたこの定理を想起させる文字列が、わずかな変質を伴いながら繰り返される。そもそも猿が出力する文字列の真価とは、シェイクスピアを再生産するような収束ではなくむしろ発散にあるはずだろう。「書く」「かく」「核」「格」「赫」…… 変質する文字列は無数の意味を分岐させ、重ね合わせる。文字列はリバーブをかけられたように尾を引き、次の文字列を侵食する。文字列の残響は紙面を反射してまわり、ついにテクストは単一の時間軸をなぞりながら再生されることをやめる。テクストはあらゆる時空間に遍在しながら、気ままにわたしたちに取り憑いてまわる。そこでは、過去と現在と未来は等しい確率で引き出される――時間移動装置。以上は編者のそれっぽい読みにすぎず、実際の作品にはもっと豊穣な世界が湛えられている。ぜひみなさん自身で体験してみてほしい。なお本作では、江永泉のインターネットカルチャーへの関心、ケンジ・シラトリのグリッチやコラージュを多用したノイジーなヴィジュアル作品およびコンクリート・ポエトリーを思わせるタイポグラフィカルな現代詩作品などを参照しつつ、再レイアウトを行なった。作品世界とあわせてお楽しみいただきたい。(編・青山新)