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【anon records】kidlit「When The Silence Speaks」

【anon records】kidlit「When The Silence Speaks」

anon pressと並走する音楽レーベルanon recordsから、kidlit「When The Silence Speaks」をリリースいたします(以下、文責:永良新)。

 

kidlitさんの技巧によるキラーチューンである本作は、トリビュート作品集『TOKYO CYBERPUNK TRIBUTE』物理版の刊行を記念したリリースパーティ「CY」への出演に先駆けて公開にいたりました。このようなマスターピースをanon recordsからリリースできることを大変うれしく思います。

 

アートワークは、先日からanon pressをお手伝いしてくださることになりましたsynomareさんに恐縮ながらご依頼させていただきました。彼のすばらしいビジュアルアートはTwitterその他のSNSでもご覧になれます。ぜひチェックしていただければと存じます。

 

以下が楽曲の紹介文となります:

 

午前4時。

終電を逃したあなたは、駅のホームで始発を待っている。あたりは沈黙に満たされている――いや、それは正確ではない。どこからか聴こえてくる機械や風の絶え間ないうなり声が、あなたの呼吸を、身じろぎのたびの衣擦れを、スマホを叩く爪の音を、ひとつ残らずかき消して、すべてを一緒くたのノイズへ帰す。沈黙のようでいて、本当は沈黙ではない。輪郭を失くした音の塊が当然のように鳴っている。

始発前のこの時間、街はまだ誰のものでもなく、あなたもまた、まだ誰でもない。

そんな宙づりの憂鬱から離れるために、あなたはイヤホンを取り出す。耳を塞ぐことは、外界の音を付け外しするスイッチのように、世界をひとおもいに無音へと変換する。あなたが鳴らすのは、とあるインターネットレーベルで発表されたばかりの、kidlitというアーティストの新曲だ。タイトルは「When The Silence Speaks」。沈黙が語るとき。どういうことだろう、とあなたは思う。沈黙が何かを語るのではなく、沈黙が何かを語らせるのではないか? たとえば、今日の仕事の〆切について、わざわざ自分の鬱屈を言語化してしまうように――。

 

再生ボタンを押す。

ポーン。一音が、沈黙を裂く。それは午前4時という今この瞬間に、鳴るべくして鳴ったような音だった。

そこから先、和音はほとんど動かない。曲は最後まで、同じ調の上にじっと留まりつづける――あなたがこのホームから動けないように。夜明け前の空が、まだ青へと踏み出せずにいるように。

変化を担うのはコードではない。フィルターだ。BPMの半分の速さでたゆたうハーフタイムの鼓動の上で、音の明るさだけが、ゆっくりと開いては閉じていく。動くのは、光の当たり方だけだ。

一分半。フィルターが絞られ、世界が水底へと沈んでいく。500ヘルツより上のすべてが、厚いガラスの向こうへと遠ざかる。輪郭を失った響きだけが、まどろみの底から遠く届く。ビートはためらい、立ち止まり、息をひそめる。沈黙がもう一度、こちらへ手を伸ばしてくる。けれどそれは、さっきまでの憂鬱な沈黙とは違う。語るべきことを抱えたまま、黙っている沈黙だ。

二分。閉じていたフィルターが、ゆっくりと開きはじめる。沈めていた分だけ明るく、いちばん遠くまで――曲の最も高いひと息へと、あなたは運ばれていく。塞いだ耳の内側で、沈黙がついに語り終える。そして最後の数秒――すべての音は、あらわれたときと同じ速さで引いていき、トラックは、始まる前と寸分違わぬ無音へと還っていく。

三分未満。それにも関わらず、組曲、いや、物語――それこそ何かを語りかけられるかのような曲だな、とあなたは思った。

 

イヤホンの向こうでは、機械のうなりも、衣擦れも、爪の音も、まだそこにある。何ひとつ変わってはいない。ただ、あなたを満たす沈黙だけが、もう先ほどの沈黙ではなくなっている。「When The Silence Speaks」――沈黙が、何かを語ったのではない。沈黙は、あなたに語らせたのだ。

空の縁が、わずかに白みはじめている。朝が来るころには、さっきまで確かにそこに在った沈黙も、ノイズとともに、またざわめきはじめるだろう。

まもなく、始発が来る。

以下、記事の本文です。

くり返しとなりますが、kidlitさんは上記のイベント「CY」に演者として出演いたします。お楽しみいただければ幸いです。